アパートの廊下を歩いていると 他の部屋の住人とすれ違った。

相手は「あれ?」という顔をしたものの軽い会釈をして通り過ぎた。

一年ぶりに渉の姿を見たから 出張にでも行っていたのか…という程の小さな反応だった。

渉の顔を見上げると 渉は軽くウインクしてみせた。


「大丈夫だよ。もともと付き合いもないしね。お互い干渉し合わないほうが楽だからね。向こうもそう思ってるのさ」


「それはそうなんだけど…。他の人にも見えるんだ。渉の姿」


「そうみたいだね。もし僕が未知にしか見えなかったら 帰り道で未知は一人でしゃべる変な人に思われただろうけど すれ違う人が誰も変な目で見てなかったからさ」


「そっか。全然気がつかなかった」


「相変わらずだね。未知は」


「それ どういう意味―?」


私は渉を睨みながら205号室の鍵を開けた。


いつもは開ける時躊躇するドアも 今日はすんなりと開けることができたのだった。