この世界で君を愛す

正木君は渉の職場の一つ後輩で よく家に遊びに来ていた。

正木君が家にいる間 渉を取られたようでちっちゃなヤキモチを妬いたりしたけど 私は弟みたいな正木君が好きだった。



正木君は俯いたまま 膝の上で両手を固く握りしめていた。

私も何も話す気になれず 二人の間に悲しく重い空気が漂っていた。



「未知さん…実は…」

やっと正木君が口を開いた。

「実は…その…阿部さんという方から職場に電話が入りまして…」

「阿部さん?」

「はい。結婚…式の事がどうのって…」

「あ…」


式場へ連絡することなんて思い出しもしなかった。


渉と私はもう…結婚式を挙げることはないんだ。


「キャンセルの連絡するの忘れちゃってた」


「ハハ」と私が渇いた声で笑うのを 正木君は唇を噛んで見ていた。