この世界で君を愛す

家の中に入ると 懐かしい匂いがした。



僕の家の匂い。


ここは…僕が育った…家なのだから。


だいぶ古びた壁や天井…歩くとギシギシ音をたてる床。


全てが懐かしかった。



「渉を連れてきたよ!」

姉がリビングにいる両親に大声で知らせる。



僕は大人になってから何度も頭をぶつけたリビングの入口をくぐった。


ゆっくりと視線を向けると 顔面蒼白の両親がいた。


母は震える両手で口を押さえながら小さな声を出した。


「…渉なの?本当に…渉なの?」



僕は小さく頷いた。


「そうだよ…母さん…父さん…。」



「渉…。」


母の体がぐらっと揺れると 大きく傾いた。


「母さん!」


僕は咄嗟に走り寄ると 母の体を支えた。


「渉…。本当に渉なのね…。うっ…うぅっ…。」


母は僕の腕を掴むと 声を上げて泣きだした。


「母さん…ごめんね。本当にごめんね。」



僕は謝ることしかできず 母の背中をさすった。