正木君は肩の上から拓也君を降ろすと 照れ臭そうに言った。


「どうってことないよ。でも正木お兄ちゃんか…俺には一応健一って名前があるんだけど…。それとも…パパ…って呼んじゃってみる…?っておーい!!」



正木君の話は無視して 拓也君は阿部さんの手を引っ張ってさらに奥へと走っていった。


「………」


夏なのに寒い空気をまとった正木君の肩を渉が叩いた。



「まあまあ。気にするな。お前いいとこあるんだな」


「本当!見なおしたよー正木君!」



正木君は振り返らずに答えた。


「俺はただ…できる事はしてあげたいだけですよ。あの二人の生活に無理矢理入って行こうとは思ってません。困った時にそばで助けてあげられればいいんです」


珍しく真面目モードの正木君のTシャツには汗が滲んでいた。


私達は何も言えず…その背中を見つめていた。




「俺…本気になっちゃいました」



そう言って振り返った正木君の笑顔は 太陽を背負って眩しかった。