☆花咲く頃に.。.:*・°


当の父は入院案内を読もうとして机に広げたけれど

『頭に入らない』と言って書類をしまいこんでしまった。

珍しい事もあるものだ。


役所関係の申請書類など、わからない事は何度でも足を運び、漏れのない書類を書いてきた父。

その父が、書類を投げ出した。

「入院の日までに書いときゃいんだから、いんだ」

そう言って、父が好きなクロスワードパズルを始めた。

けれどもすぐに、窓を開けてタバコを吸い、全く読み進まない新聞紙に目を落としていた。


何も頭に入らない様子の父。

【癌】の言葉を聞かないふりしただけだろうか?


「切れば治るんですよね?」

あの時、身を乗り出して聞いた先生への問掛けは、父自身への問掛けか?


そこへ出掛けていた母が帰って来た。最近、物忘れが酷くなっている。

尋常ではない。けれども、病院で診て貰うのは嫌だと言い続けている。


【宣告】されるのが嫌だからなんだそうだ。こちらとしては、白黒、はっきりして欲しい所だけれど…

無理には連れて行けない。

そんな母へ、父の結果を伝える。伝えた後で、母から父に告げられた言葉は


「だから早く病院に行けば良かったのに」


お母ちゃんの退院を待ってたって、言ったよね?

その後も、母のこんな調子は変わる様子も無く、

事の次第を把握している様には、とてもじゃないけど、思えなかった。