人質となった娘の目の前で躊躇する事なく人殺しを済ませた斎藤は、特に悪びれもせずに納刀する。

「後で新撰組の隊士が死体を運びに来る。気にせず待っていろ」

それだけ言い残して、彼は帰ろうとした。

しかし。

「あ…あのっ」

先程まで人質にとられていた娘が、斎藤に呼びかける。

「あの…危ないところを助けていただき、本当に有り難うございました。何とお礼を申してよいやら…あの…せめて…」

娘が言いかけたところで斎藤は背を向ける。

「まさか田舎芝居のように『せめてお名前を』なんて言う気じゃないだろうな。よしてくれ…俺は任務でコイツを殺しただけだ。必要とあらばお前ごと刀で貫いていたかもしれんのだぞ…そんな奴に礼など言うな」

無愛想に言い放って、斎藤はその場を立ち去った。

…しかし、娘はこの日の事を一生忘れる事なく覚えているだろう。

何故ならこれが、斎藤とこの娘の運命の出会いなのだから…。