しかし、彼ほどの男をいつまでも一室で遊ばせているほど警察も暇ではない。

すぐに彼は事件発生の知らせと共に駆り出される事となった。

剣客警官である藤田にとって、安息の時間などは極僅かに過ぎないのだ。

…警視庁の長い階段を部下と共に足早に下りながら、下で待たせている馬車へと向かう藤田。

日々飽きる事なく発生する血生臭い事件にうんざりしながらも、彼は心のどこかでそんな日々を懐かしくも感じていた。

そう、彼は過去にもこんな血と刃に彩られた、闘いの毎日を送っていた。

まだ警視庁警部補・藤田五郎が、新撰組三番隊組長・斎藤一と呼ばれていた時代…。

今を遡る事十九年前。

黒船来航により徳川の天下と幕府の治安系統が乱れ、夜盗盗賊が暗躍する血風の魔都と化した、幕末の京都。

その動乱の最中、壬生村に屯所を置き、浅葱色に段だら模様の羽織、『誠』一文字の旗印で京洛を震撼させた、勇猛果敢な狼達…。

これは、そんな日本最後にして最強の剣客集団・新撰組の中でも、特に暗殺剣、粛清の刃を振るう事が多かったという、血に餓えた狼達の物語である…。