ヴァンパイアは10歳で成人を迎える。

この日、ルシアとデュオもまた、晴れて成人を迎えた。

ヴァンパイアの王の息子と娘である二人の成人には、盛大なダンスパーティーが用意されていた。

「わぁ!デュオ様、すごいですね!壁一面に敷き詰められたバイオレットのバラ…なんてロマンチックなんだろう。この『ヴァンパイア・キス』始まって以来ですよ」

自分のことのように異常に興奮しているブルースを横目に追いやりながら、デュオはダンスホールの中央へとルシアをエスコートし歩いていく。

ルシアは隣を歩く兄の誰よりも強いエクスタシーにどうしようもなく引き寄せられる衝動を抑えていた。

やっと、やっとこの日がきたんだ。

わたくしはやっと……お兄様のエクスタシーを受けることができる…!

そんなことを考えていたルシアの横で、デュオはふと足を止めた。

ルシアが思わず見上げた兄の顔はただ一点を見つめる真剣な眼差しだった。

「お兄様……?」

デュオはグランドピアノに座り優雅な物腰で楽譜をめくるヴァイオラを見つめていた。

ヴァイオラはこの日、デュオとルシアを祝う曲を演奏する役目を受けていた。

「お兄様、ヴァイオラが…何か?」

ルシアの声にデュオは一瞬気付かなかったようにヴァイオラを見つめたまま……、だが、すぐになにごともなかったように歩き始めた。