「ヴァイオラ…この曲はなんていう曲?」

白のフリルのドレスを身にまとい、ヴァイオラのベッドの上に座るルシアが隣でグランドピアノを弾くヴァイオラに声をかける。

この頃、ルシアはヴァイオラが奏でるピアノの調べに誘われて、よく彼女の部屋を訪れていた。

「曲名は……忘れてしまいましたわ。ルシア様」

ヴァイオラは青の瞳の奥を揺れさせ、微かに頬の端を緩めてルシアに笑いかけた。

ヴァイオラのピアノの調べは、滑らかで品があり、どこか物悲しい切なさがあった。

ルシアはヴァイオラが毎日必ず弾いているこの曲に、孤独な自らを照らし合わせるように惹かれていた。

「この曲でいつかお兄様とワルツが踊りたいわ。ヴァイオラ…いつか『ヴァンパイア・キス』でこの曲を弾いてくれる?」

「もちろんですわ。ルシア様」

ルシアはいつか大人になり、兄と踊るワルツを夢に描いていた。

いつか、両親のタンゴよりもヴァンパイアたちを魅了するワルツを踊るのだ、と。

そして、兄にさえ愛されていれば他には何もいらないのだ……と。

まだ幼いルシアは、陰りを落としたヴァイオラの表情に気づくこともなく、兄への想いに胸を熱くしていた。