恋文~指輪が紡ぐ物語~


 松岡は、あの時、「会いたくなんてなかった」と言った。
 辛い話だと分かった上で、何も知らない花乃に伝えるのは、松岡だって辛かったはずだ。「俺は伝えなきゃいけない。彼女は知らなきゃいけない」そう言った松岡を思い出して、志穂は何も知らずに勝手な事を言った自分を恥じた。

 今だって、全てを知ってるわけじゃない。だけど、大筋の事は分かった。その上で、志穂は、松岡に会った方がいいと言った。

 志穂が知らない『こうすけ』という人を知っているのは、花乃と松岡のふたりだ。志穂が聞いた限り、ふたりは『こうすけ』の話をしていない。

 それでいいのだろうか?

 志穂はまだ近しい人を亡くした経験がない。だけど、故人の思い出を話したいと思うのは普通の事のように思えた。

 少なくとも花乃はそうだろう。聞きたい事があるはずだ。
 だけど、だからといって、松岡もそうだとは限らない。花乃よりも辛い想いを背負っているのは志穂にもわかる。
 でも、志穂は花乃の友達だ。松岡が『こうすけ』の友達だったように。だから、志穂は花乃が「会いたい」と言うなら、その思いを尊重したい。