花乃は初めてきたお店で居心地が良かった事はあまりない。ここはゆったりした時間が流れていて、せかせかした日常を忘れられる。
店内を眺めていた花乃が、ぽつりと呟いた。
「……時計が、ない?」
「Percheは時間を忘れて羽を休める場所なんですよ」
花乃が声をした方へ顔を向けると、カウンターにいた店員が「お待たせいたしました。どうぞ」とふたりの前に大きな白いお皿を置いた。
ふたりの前に置かれたのは色鮮やかなフルーツの乗ったパンケーキと、シロップ。
「「わぁ~、美味しそう!」」
思わず、声に出てしまうくらいおいしそうなパンケーキ。今までみたパンケーキとは見た目も違う。
こんがり焼かれたパンケーキをいつも食べていたけれど、これはあまり焼き目がない。そして、厚みがある。
「ごゆっくり、おくつろぎください」
さっそくシロップをたっぷりかけて、パンケーキにナイフを入れて、その柔らかさにびっくり。そしてそれを口に運んだ二人は思わず、
「「なに、これ!?」」
と、顔を見合わせた。
「おいし~」
「ふわふわ。口の中で溶けちゃったよ」
見た目も触感も今までふたりが、食べた事のないパンケーキだった。
このパンケーキは、このお店の今は亡き初代マスターから今のマスターへと受け継いだ伝統の味だそうだ。
オーダーを受けてから時間はかかるが、食べれば誰も文句は言わない。
――Perche自慢の一品だ。

