涙で視界がかすむ。
途中からこらえきれなくなった涙は次から次へとあふれて止まらない。
ぼやける視界で、必死に文字を追った。
頬をぬらす涙をぬぐいながら、嗚咽をこらえながら最後まで読み切った花乃は、その場にしゃがみ込み体育座りをしてスカートに顔をうずめて声を上げずに泣いた。
どのくらいそうしていただろう。
花乃が顔をあげると、空は色を変え始めていた。
屋上に来た時の青さは消え、オレンジ色に染まり始めている空。
花乃が思い出すのは、いつかの夕暮れ。浩介と手を繋いで、おばあちゃんの家へ帰る場面。ふたりとも笑顔で、「ばいばい。また明日」そう言って、手を振り別れた。
思い出して、また花乃の目には涙がたまる。それを手で拭い、しばらくその場を動けずにいた花乃はゆっくりと立ちあがった。
「帰ろう……」
そう言葉に出したのは、言葉にしなければ行動にうつせないような気がしたから。
花乃は一度、暮れていく夕日を振りかえって「ばいばい……」と言って、屋上を後にした。

