恋文~指輪が紡ぐ物語~


    * * *

 カーテンを開けると、空は快晴だった。
 梅雨がもう終わるのだろう。最近は、雨があまり降っていない。晴れているとは言えないけれど。しかし、まぶしい日差しを目にすると、もうすぐ夏が来ると実感する。

「よしっ」

 花乃は制服に着替えると、ひとつ気合いを入れて鞄を手にして部屋を出た。左手は無意識のうちに胸にある指輪を握っている。


 玄関を開けると、志穂が待っていた。

「おはよう、花乃」

「おはよう、しーちゃん」 

 二人ともしばらく手放せなかった傘を手にしていない。
 マンションを出ると、眩しい日差しの中を並んで歩いた。なぜか、とても久しぶりの感覚だ。

「花乃、なんかあった?」

「ん?そうかな」

「なんか、すっきりした顔してるよ」

 いつも一緒にいるだけあって、志穂はするどい。すぐにばれてしまうから、花乃は志穂に隠し事はできない。

「もしかしたら、もしかしたらだよ。まだ確証はないんだけどね、松岡くんのこと、わかった、かもしれない」

「わかったって、知り合いってこと?」

「うん。もし、この指輪の持ち主が松岡くんだったら、小さい頃に会ったことがあるの。でも、まだわかんないから。わかったら、ちゃんと話すね」

 嬉しそうに話す花乃とは対照的に、志穂は暗い表情になっていた。
 昨日、松岡から聞いた話が頭を過ぎ去る。
 昨日の話を聞く限り、花乃が悲しむ事実があることは確かだ。だけど、花乃は真実を知りたがるだろう。いまさら、後に引くわけにはいかないと言って。
 松岡は何を知っているのだろ?考えても答えなんか出ない。だけど、やっぱり、花乃が悲しむ姿は見たくない。

「花乃、なんかあったら、ちゃんと話すんだよ。なんでも聞くから」

「しーちゃん、どうしたの?」

「なんでもないよ。ただ、私はいつも花乃の味方だからね」

 二人での登校は、一人のときと違って、あっという間に学校に着いてしまう。