* * *

 志穂は目を閉じて、大きく息を吸う。

 使用する機会の少ない視聴覚室。教室とは違う冷たい空気が漂っている。

 志穂が目を開けたとき、視聴覚室のドアが開いた。
 ドアを開けたのは、志穂が呼び出した人物。

 まずは、ちゃんと現れてくれたことに安堵する。

「来てくれて、ありがとうございます。松岡先輩」

「いやいや、美人さんのお誘いは断りませんよ」

 相変わらず掴みどころのない表情でおどけたことを言う松岡に、志穂は心の中で舌打ちをした。

 自身が所属する弓道部の部長と彼が同じクラスだということで、軽くリサーチしてみたがイマイチよく分からない。
 目の前にいる人物と、部長が言っていた人物、花乃から聞いた人物、そのどれもつながらない。

「どうかした?しーちゃん」

「佐々木です」

 彼に呼ばれた『しーちゃん』というあだ名にカッとして大きな声が出てしまった。

「誰だってそうだろ?」

 彼は静かに言葉を発した。
 なんの話だろう?