「一緒に帰ろうか」
志穂が振り向くのを待って、彼が言う。
「いいですよ」
そう微笑む志穂の漆黒の長い髪がさらりと揺れる。
長身の美男美女が並べば絵になる。
周囲の視線はふたりに注がれているが、当のふたりは気にした様子はない。
「久しぶりですね、一緒に帰るの」
「志穂がつれないからな。俺が声掛けようとするといつもいないんだから」
そう言いながら榊は柔らかく微笑んでいる。
だけど、志穂は知っている。
彼の表情と内心が同じとは限らない。
「部長は、誰にでもそんなこと言いますよね」
「そんなことないよ」
心底から心外だという表情を浮かべた榊に、志穂はやれやれと思いながら肩を竦める。
彼は誰にでも優しい。そして、いい顔をする。それが地なのだからタチが悪い。
「まぁいいんですけど」
「志穂は、いつも花乃ちゃん優先だよね」
「過保護だって言いたいんですか?」
「誰かにそう言われた?」
榊の言葉に志穂ははっとする。
松岡に言われた言葉。気にしてないつもりで、でも内心は違っていた。

