恋文~指輪が紡ぐ物語~


 志穂が忙しく生徒会や部活に追われている間にも、花乃は誰だか分からない相手との手紙のやりとりを続け、放課後は松岡と会っていた。

 志穂の目には、花乃が日に日に落ち込んでいくように見えた。

 それは、花乃が思い出せない自身に焦り苛立っているからだと、志穂には分かる。

 だけど、見ていられない。



 そんな時、その噂を耳にした。


「志穂」

 部活が終わり、げた箱で靴をはきかえているとき、聞き慣れた穏やかな声が志穂を呼ぶ。

 志穂が声がした方を見ると、やはりよく知った人がいた。
 志穂が所属する弓道部の部長である榊政宗。彼は2年の頃から部長を任されていた。華奢な見た目と優しそうな柔和な表情。一見、弱そうな彼がなぜ部長を任されているのか、志穂には理解できなかった。

 しかし、彼を知れば納得ができた。人は見た目じゃない、と。

 華奢な見た目からは想像できない筋肉のついた体。柔らかな雰囲気は人に好感を与え、しかし、自分の意志をしっかりと持つ。

 彼が弓を構えた姿は誰もが美しい、と思うだろう。