恋文~指輪が紡ぐ物語~


「おはよう、しーちゃん」

 花乃が伺うように声をかけると、志穂は呆れたようにため息を吐いた。

「おはよ。花乃、大丈夫?複雑な顔で手紙とにらめっこしてたけど」

 志穂が自分の心配をしていたんだと気がついた花乃は、少し迷いながら口を開いた。

「…あの、ね。私が、しーちゃんの隣に越してきたのって、いつだっけ?」

 訝しげな顔をしながらも志穂は答えてくれた。

 花乃が、志穂の住むマンションの隣の部屋に越してきたのは、ふたりが小学校に入る前。
 花乃の母親と志穂の母親が友人ということもあり、家族ぐるみの付き合いだ。
 父親のいない花乃は、母親が働いている間、志穂の家にいたし、いつだってふたりは一緒だった。

 だからきっと、小さい頃というのは、それ以前。今のマンションに越してくる前ということになる。

ーー私は、どこにいた?
 思い出せない。

 …なんで?


 花乃は不思議で仕方がない。ここに越してくる前の記憶が全くない。
 小さい頃だから覚えてない、という次元ではないような気がする。


ーー何か、あった?