恋文~指輪が紡ぐ物語~


 厚い雲の切れ間から、光が差し込んできた。

 松岡はちらりと窓の外を見て、視線を花乃に戻した。
 手にしていた手紙を花乃に差し出しながら、少し困ったように言った。

「…思い出してほしい人は、素直に教えてくれないと思うよ。もっと間接的なこととかの方が答えてくれると思うけど、」

 松岡がそこで言葉を切ったのは、目の前の花乃が難しい顔で悩んでいたから。

「…でも、まぁいいんじゃない。正直な気持ちを伝えるのも」

 松岡は心の中でため息を吐いて、彼女を宥めつつも、素直な反応に好感を抱いていた。


 窓の外は、またしても厚い雲に覆われ、すぐにでも雨が振り出しそうだった。


「降り出す前に帰ろう?」

 松岡が促すと、花乃は「そうだね」と、バッグをつかみ、手紙を大事そうに手にした。





 次の日、この手紙は、花乃のげた箱からなくなっていた。