* * *

 初めこそ僅かに緊張したものの慣れてしまえば、この静かで穏やかな空間は居心地のいい場所だった。

 花乃は帰りのHRが終わったと同時に教室を飛び出し、ここにきた。

 理由は勿論、彼に会うため。

 ふと、視線を窓の外に向ければ、運動部がグラウンドを走っていた。

 貴重な梅雨の晴れ間。


「あれ?早いね」

 聞き慣れてしまった低い声が、驚きを含んでいる。
 彼は先客がいるとは思っていなかったようだ。

 その様子に、花乃は嬉しそうに笑顔を向ける。

 本に囲まれた空間は気持ちを落ち着かせるのか、花乃は少し前まで感じていた意味のない焦りが消えていることに気づいた。

「これ…」

 松岡が前の椅子に座ったのを見届けると、机の上に出してあった封筒を彼に差し出す。

 松岡は差し出された封筒を無言で受け取ると、中の手紙を広げ目を通した。