「ちょっと待って」
志穂の鋭い声が静かな図書室に響く。
志穂に向けられたのは、感情の読みとりにくい松岡の表情。
「なに?」
声音こそ穏やかだが、感情が読めない表情に、志穂は声が詰まった。
「、花乃に何の用?」
「俺が用があったわけじゃない。花乃ちゃんが俺に用があったんだ。だから、君が心配してるような事はない」
感情のこもらない松岡の声音に、志穂は苛立たしげに彼を睨んだ。
松岡はそんな視線も気にせず、すれ違い様に「過保護すぎ」と小声で呟いてその場を去っていった。
「なっ、ちょっと待ち…」
「しーちゃんっ!」
志穂の声を遮ったのは、普段は大人しい花乃の大きな声だった。
「花乃?」
「本当だよ。松岡くんの言う通り」
「松岡くんて…」
人見知りするくせに、疑うことを知らない花乃。だけど、いつもは面識のない人間とは距離を置いていた。
そんな彼女が、松岡には心を開いている。志穂には不思議で仕方ない。
「何があったの?」

