しかし、空気が読めないのか、あえて読んでないのか分からないけど、幸絵さんはマスターの話を続ける。


「そういえば、純也さっきコーヒー豆買いに行ったから、そろそろ帰って来ると思うけど・・・」


ああ、

だからマスターはいないのか・・・・


「いいや、あたし、そろそろ帰るよ」

君は、幸絵さんの言葉を遮って、アップルパイには少しも手を付けずに席を立った。


「行こう」

そう言う君の表情は、まるで僕に助けを求めているように見えた。


もったいないから、残ったコーヒーを一気に飲み干して、僕も立ち上がった。


「ごちそうさまでした」

これでも一応、君の友達だ。

礼儀くらいはきちんとしないと。

下げた頭を上げると、幸絵さんは何故か微笑んでいた。

金を払い、車に乗る。

幸絵さんは、店の外まで出てきていた。

君は車の窓を開けて、顔を出し、幸絵さんに向かって笑顔で手を振っている。

もちろん、幸絵さんも。

そして、幸絵さんが見えなくなったとたんに、君は、深いため息を漏らした。


「・・・・なんか、大丈夫?」

君のことが気になって仕方なくて、思わず聞いていた。


「うん、ありがとう。」

君の顔は、まだ暗い。


「いいよ、無理しなくても。僕にはちゃんと話して」



「・・・・・うん」


正直、君の気持ちとか、全てを聞きたいわけじゃない。

全てを聞くのは、なんか怖いから。

でも、君が楽になるんだったら・・・・


「あたし、高校の時ね・・・純也と付き合ってたんだ」


すぐに、

深入りしたことを後悔した。