「そ、ら・・・?・・・いい名前だね」
葵は空に笑顔を向けた。
「あたし、『空』見るのだいすきなんだ」
誤魔化すように『空』を見上げる。
記憶を押し込めるために。
視線をそらしてしまったため、空が一瞬訝しげな顔をしたことにも気がつかなかった。
「あ。」と何かを思い出したように葵が声をあげ、『空』に向けていた視線を空に戻した。
「あたし、まだ自己紹介してなかったね」
きょとんとしていた空の表情が変わり、「あー、そうだね」と興味なさそうに応える。
葵はそんな態度に少し笑みを零し「陽向葵っていうの。よろしくね」と簡単な自己紹介をした。
学年やクラスも言うべきか多少考えたが、そんなもの無意味に思えた。
学年が一緒ならいずれわかるだろうし、違うなら関わりもないだろう。
・・・まあ、葵より大人びている空が葵より年下ということはないだろうけど。
空は少しだけ首を傾げたが、すぐに「ああ。」と自己解決したようだった。
「あんたが・・・ね」と呟いた声に対してきょとんとした表情を向けたが、空が寝る体制に入ったので会話はここまでだと理解した。
空もまた、葵が海輝の言っていた転入生だと気がつきながら、何も言わなかった。
多分、同じクラスで席が隣だということも。
見た目は幼いが雰囲気が年下だと思わせないところから、同じ学年だと決めきっていることも。
わざわざ言う必要はないだろう。
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