愛しいひと







「・・・あれ?」

ベンチから起き上がる男の姿が目に入った。


「ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」

葵は数秒悩んだ末、ベンチに向かうことにした。


近寄って間近で見るその男はとても整った顔立ちをしていて・・・。
“綺麗”
まさにこんな言葉が似合う感じだった。


男は葵の言葉に返事もせず、欠伸をした。

ベンチにたどり着いた葵が、どうすればいいか迷っていると
「・・・座んないの?」
と男は言葉を発した。

「えっ。あ・・・いいんですか?」

「別に・・・俺のじゃねえし。自由に座っていいんじゃない?」

「そう言われれば、そうだよね・・・。じゃ、遠慮なく座らせていただきます」

葵はそう言って、ベンチにちょこんと座った。


向かいあって座ったものの、話し出す気配がないので葵から話題を出してみることにした。


「あの・・・名前、なんてゆーの?」

「え・・・俺?聞いてどうすんの?」

「え?どうすんだろ・・・。えっと、とりあえず知っときたいなーって」

「・・・変なの」

「・・・変なのかな?」

「・・・さあ?俺の意見だから」

「んー。じゃあ、あたしの意見を言わせてもらえば、あなたのほうが変」

「へえー」

「・・・なんか・・・不思議なひとだね」

「桜木空」

「え?なにが?」

「俺の名前。桜木空」






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