「選んだって?」
とぼける気なのか。
「だって、契約、断ってたって、言った」
「うん、言った」
それなら、何で。
「わざわざ私を、ご主人様にする必要、ないじゃない」
早坂爽がキレイな形の眉を歪ませる。
困ってるのか、怒ったのか、その中間ぐらいの表情だ。
しばらくの沈黙をおとして、早坂爽は答えた。
「……意味なんかねぇよ」
ニヤリと口端を片方だけ上げる。
纏う雰囲気が変わった気がした。
(あ、やっぱり、怒ったの、かも。)
どんどん顔が近づいてくる。
漆黒の濡れた瞳が、私の目を見る。
フッ、と息をもらして
――ちゅ
リップ音がなければ、くちづけられたなんて分からないぐらいのキスだった。
また、キスされた。
私の頭はまだ働かないようだ。
自分がされていることなのだが、他人事に思えた。
(なんで、怒ったんだろう…)
そんなことを冷静に考えていると、また小さな音。
「…な、に」
ちゅ
「…んっ」
「意味なんかないよ、ただ」
「…た、だ…っ?」
「……ただ」
そして、唇が離れた。
こいつのキスには、クスリでも入っているんだろうか。
また、意識が遠くなる。
視界が霞むなか、早坂爽の唇が動いたが
私の耳にそれは届かなかった。


