俺を離すと、美波は少し乱れた髪を整え、俺を見た。




「とりあえず、明日からがんばってよ。

私のために」



「……………」




誰かのために、何かをがんばる。



それはこんなに憂鬱なものだっただろうか。




「それじゃあ、私、もう寝るから」




美波はそう言うと、ラブレターをノートに挟み、部屋のドアノブに手をかけた。



その後ろ姿を、俺は無言で見ながら、苦笑いを浮かべた。



そのとき、ふいに美波が振り返った。




「何にやついてんの?

気持ち悪い」



「なっ………」



「………とりあえず、今日は………ありがとう。

………おやすみ」




そう言って美波は部屋を出ていった。



そしてぽつんと立ちすくむ俺は、頭をかきながら小さな声でぼやく。




「………ありがとうって、初めて言われたな………」




ちょっと照れくさくなり、何気なく部屋を見渡した。



…そして、気づく。




「………予習、どうしよ」




今日は深夜まで机に向かうことになるらしい。