妹なんていらない

近づくにつれ、心臓の鼓動は速くなっていく。



落ち着け。


今まで俺はこいつと練習してきたんだろ。


そう、いつもどおり。


ここは舞台じゃない。


俺の家、俺の部屋だ。




俺は美波の手をとった。



美波がビクッと体を震わせる。


ああ、そうか。


こいつ、俺と結城が入れ替わってること知らないから俺のこと、結城だと思ってるわけだ。



俺は、ふぅ、と息をはくと、セリフを口にした。



「申し訳ありません。

私は聖地に触れてしまいました。

もしこれに触れて汚したのであれば、私は赤面した巡礼です。

………その償いのため、私に接吻させてはもらえないでしょうか?」



俺の声を聞き、美波が目を見開く。


慌てた様子で美波は舞台裏に視線を送り、そして再び驚いた顔をする。


大方、結城が倒れたことでも知ったのだろう。



「…………」



一向に言葉を発さない美波。


場面が場面なだけに、観客にはジュリエットが驚いているように見えるだろうから、それが唯一の救いだった。



俺は仮面の下、美波にだけ聞こえる声でつぶやく。



「………いつもどおりやるぞ。

俺達の………ロミオとジュリエットだ」