生まれ落ちた【それ】は
ずっと愛に飢えていた。

父といえるその人から与えられるものは
人に対する物ではなかった。

ただ、完璧な【物】であれ。
ただ、美しく【物】であれ。

求められることはそれだけだった。

【それ】はただ自分の居場所を求めるために父の欲に答えた。
それは只、ただ完璧だった、美しかった。

父と呼ばれるその人の傍にいるそのうちに
いつしか【それ】は自分が父の能力を超えていることに気がつく。

自分の世界が広がると同時に【それ】は自分の境遇を呪う。

自分の生を呪う。

そして運命を変えようとする。

持てる技術を使い極秘裏に【それ】は時間を超える術を得た。

そして自分の存在を消すために時を超える旅に出る。

途方に暮れるような長い旅で【それ】は一人の女に出会う。

女は【それ】を愛した。

女は【それ】に名前を与えた。

度重なる転移にもう美しさはどこにも無かった。
それでも…女は【それ】を深く愛した。

女と過ごすうちに【それ】は女と自分の【子】を望んだ。

完璧であった【それ】は子を成す事が出来なかった。

そして二人は持てる知識を合わせ、呪われた人形を創り出す。
二人の思い出を決して忘れないよう、人形に全て封じ込めた。

そして幾年もの時間が経ち、【追手】は現われた。
名前の与えられた【それ】を取り戻し、壊すため。

女は追手の手にかかり死に【それ】は嘆き悲しみ、いつしか怒りに染まった。

そしてその嘆きによって始まりの呪いが動き出した。
【それ】は追手から逃げ、次元の挟間に自らを眠らせた。

二度と目覚めることのないように。
自らの願いを叶えるために。