迷子のコイ

「・・・アイリ・・・」


病院の、手術室の前・・・。


「少し、座れよ」


ずっとドアの前で立っていたあたしに、
ふたりが言った。



「・・・うん・・・」


壁際にあるイスに座ると
着ているキャミソールの
汚れてる一部分に目がいってしまう。


・・・『カケル』の、血だった。

あたしはその血のついた部分を
ギュウッとにぎりしめた。

まるでカケルの『命』を、繋ぎとめるみたいに。





「・・・カケルにさ、会ったんだよね」


「え・・・」


「コンビニ行った帰り・・・たまたまなんだけど。
 ・・・アンタと約束してるはずのアイツがいたから・・・」



ナギの話によると
ナギから

『今日アイリと約束してるんでしょ』

そう言われたカケルは
すぐに何かがおかしいって気づいたんだって。


自分ではない『誰か』があたしへと送った手紙。


バッグを投げ出し公園へと向かったカケルに
尋常ではない事態をおぼえたナギは
すぐに俊哉の家にむかったらしい。

そしてふたりで、公園に来てくれたのだった。




「・・・でもホント、行ってよかったよ」


「・・・うん・・・」


1度は止まった涙が、またあたしの頬を伝った。


「・・・こわかった・・・」


・・・殺されそうになったことがじゃない。
カケルを・・・失いそうになったことが。

あのときの恐怖を、あたしは一生忘れないと思う。