先生は優しく
「藤井さんの気持ちはわかるよ。
 君がここに始めて来た時
君は死んだようだった。

激しく暴れたりしないし、
人の言う言葉が全く
耳に入ってないって様子だった。

お姉さんの死がよほど
ショックだったんだろうね。

そして記憶の断片がないことも
わかった。

人間には自己防衛本能って
いうのがあって君の場合は、
自分で自分の記憶を
消してしまったんだよ。

忘れることを君が望んだ。

そして、その結果
君は普通に生活できるように
なったんだよ。」

『でも・・・知りたいんです!』
口を挟む私に、
「僕も今まで何人も君と同じような
ケースの患者さんを見てきて、
治療もしてきた。

でも君の場合は・・・
その失われた記憶を思いだした時
君の心臓がどうなってしまうか、
医師としてそういう危険は
避けなければいけない。」

『私がそれでもいいと望んでも!
 ダメなんですか?』
私は必死だった。