「ふーをイジメんな!!このガキ!!!!」

支度を終えた姉、正確に言うと双子の姉の妹、由那(ヨシナ)が現れ、彼の背中に正義の蹴りをいれる。

蹴りって……お姉ちゃんも充分大人気ないように思えるけど。

「いってぇ……」

「ほら、行こうよ」

由那姉はいつも家にいるみたいなスッピンTシャツジーパン姿ではなく

綺麗にお化粧をして少し肌の露出が多いワンピースを着ていた。

紺色のワンピースは肌の白い由那姉によく似合う。

私はそれが彼女の1番お気に入りのワンピースだということを知ってた。

母親の家系のせいかもしれないけれど、お姉ちゃんは実際の年齢よりはるかに若く見え、可愛い。

だから実際では母親でもおかしくない年齢の姉だけど、友達から姉を『母親』とみられたことがなかった。

「ちょっ、姉としてこの間違いを見過ごしていいと思うのか?」

「んー……」

「お姉ちゃん?」

算数の宿題プリントを見つめ固まったままの姉。

「これは……ふー、このお兄ちゃんに徹底的に算数を教えてもらいなさい。性格ガキだけど、算数を教えるのは上手だから」

「一言多いって」

ジロッて由那姉を睨む彼。

「その通りじゃん」

べーっと舌を出して対抗する由那姉。

「でも……お姉ちゃん達お出かけするんやないの?」

「それはまた今度でも大丈夫。今はふーの分からないトコを教えてもらいなさい」



この時、私はまだ恋をするというコトを知らなかった。
この2人の関係も知らなかった。

何も、知らなかった。

この時はただ……ただ彼が一緒にいるだけで嬉しかった。

ただ、それだけでよかった……。