ブラスバンドは文化祭での発表は勿論、コンクールに向けて2曲を仕上げなければいけなかった。

「あー!!もぉ無理ッ!!!!マーチ嫌い。リズム細かくて面倒っすよ」

只今、放課後のパート練習中。

茹だるような蒸し暑さと課題曲であるマーチのややこしさもあり、1番始めに音を上げたのは吉田先輩だった。

「……そこ、ウザイ」

3年生の城先輩がストレートの長い黒髪をかきあげ、切れ長の瞳で吉田先輩を不機嫌な表情で睨みつける。

その瞳は先輩の髪と同じく漆黒で、『吸い込まれそうな瞳』って先輩のような瞳のコトだと初めて知った。

みとれてしまう位、美人。
日本人形のような古風な女性。

ただ、ちょっとだけ先輩には変わった一面があった。

「ちょこっと休憩しませんか……えへ★」

「えへ★を付けて可愛いさアピールをするな。気色悪い」

城先輩は口調がキツイ。だけど……

「あぅー……蜜花ちゃん後は任せた」

バタ……そう言うなり、私の方に右手を挙げたまま吉田先輩は机に突っ伏した。

またこのパターン……吉田先輩に文句を言いたいのは山々だったけど、少し休憩をしたいっていう本音もあった。

「あの……ちょっとだけ休憩しませんか?さすがに暑いですし、水分補給しないと吉田先輩バテますよ?」

ジト……城先輩が不機嫌な表情のまま私を見つめる。

初めて見つめられた時は心臓を射抜かれるかと思ったが、2ヶ月経てばそれも慣れた出来事だった。