結局、手を離したのは車に戻ってからだった。

先生から手を離した。

「あ、すまん。繋ぎっぱなしやった」

「いぇ……」

謝らなくてもいいのに……。

なんだか現実に引き戻された気分。

「もしかして蜜花って冷え症?」

「そうですね。足先とかめちゃ霜焼けになり易いですし」

「やっぱり。蜜花の手、氷みたいに冷たいなぁーっと思って」

「手が冷たい人は心が温かい人って知ってます?」

「なんやねん、それ。俺は手も心も温かい人間やからなぁ」

「えー。それ自分で言います?」

「知らなかった?」

ニヤリと笑う先生。やっと塾の雰囲気が戻ってきた。

「知ってましたよ。先生の優しさはいつも感じていますから」

私も笑顔で反撃。いつも私が振り回されるばかりだから。

「……ッ!」

……アレ?

先生の顔は真っ赤で

「蜜花……それ反則や」

思ったような答えが返ってこなかった。

「……なので心温かい先生、宿題を減らして下さいな☆」


冗談でも言わないと
雰囲気に流されそうで……


「なんやねん、それ。明日は倍の宿題出したるからな」

先生は微笑んで、私の頭をぽんぽんっと撫でた。

その時の先生の瞳はとても優しい瞳をしていた……。