「もしもし……」

弟から子機を受け取り、保留のボタンを押し、耳に当てる。

ドキドキは増すばかりで一向に収まる気配はなかった。

まるで、何も悪いコトをしていないのにパトカーを発見したらドキッとするような、そんな感覚。

『本当は今日授業日だったのでは!?』って真剣に暗い方向に想像していたのに

「チャオ☆蜜花」

電話越しのこのふざけたノリの挨拶。

少し鼻にかかったような柔らかい声。

声を聞いただけで、誰かスグ分かった。

「藤谷先生!?……なんで?」

いつも教室長が塾の連絡をまとめてしていた。一講師の先生が電話をするコトは今までなかった。

ますます考えは悪化していく。

もう私の頭の中はパニックに陥っていた。

だから

「今からヒマ?」

「はい」

脈絡もない先生の言葉に頷いてしまった。