菜都がうつ向いて低く呟いた。
言葉は聞き取れたけど、意味が分からずに聞き返す。
すると、菜都はうつ向いていた顔をバッと上げた。その目は、とても光っていて、涙をこらえていることが一目で分かった。
「え、菜都、何泣いて――」
いきなりのことに驚いて、俺は菜都に手を差しのべた。
「もう、あんたなんか大っ嫌い!」
「ちょ、…菜都!?」
しかし、菜都はその手を払って、俺のことを睨み付けると、自分のカバンを引っ付かんで、あっという間に教室を出て行った。
あまりの速さと、あまりの突然さに、俺は行き場を失った自分の手を見つめることしか出来なかった。

