“あの場所”とは、工事が途中で中止になったらしい建物のこと。工事中断された割には、ほとんど完成されていて、屋上までも造られていた。

ここは、俺と菜都だけが知る秘密の場所。だから誰も来る心配はなかった。




俺は菜都の腕を引いて、屋上まで階段を駆け上がった。そのせいで、菜都も俺もかなり息が切れていた。

俺は菜都の前に背中を向けて立っている。


「か、い…」


不意に後ろから菜都の声が聞こえて、俺の心臓はさらにうるさく鳴り出した。
俺はなんとなく怖くて、菜都の顔が見れずに背を向けたまま。

すると、菜都から思いもよらない言葉が聞こえた。


「…ありがとう、海」