少し古びた校舎、校門の横に植えられた大きな桜の木、校庭のはじに置かれた鳥の巣箱、下駄箱、廊下、教室・・・。

二年以上通っている見慣れたはずの学校が、たった数ヶ月来ないだけでこんなに懐かしく思えるとは考えていなかった。

由樹は自分の席に座っていたが、自分が取り残されているような、場違いな感じさえあった。

「ねぇ、あの子でしょ」

「義体だって?信じられない」

友達が、クラス中が、学校中が由樹の身体が義体だということ知っている。

「初めて見たよ、あれが義体?」

「アンドロイドみたいなもんでしょ?」

さすが金持ちの道楽と言われるだけのことはある。

一般的にはそんなに認知度は高くないため、間違った知識を持っている人も多い。

「やだぁ、なんかキモイ、アハハ」

小さな声でヒソヒソとウワサ話は広がっていく。

隣のクラスから、違う学年から、わざわざ由樹を見に来る生徒までいた。

昨日までの、何もかも上手くいくと思っていた浅はかな自分が滑稽に思えてくる。

「そこまでして生きていたいのかね~?」

――生きたいわよ!――

・・・と、唇をキュッとかみ締めながら思った。

――死という絶望の淵に立たされたとき、生きる術があるというのに、あなたたちは死を選ぶと言うの?――

「人間としてのプライドがないよね」