退院の日、母親は主治医から最終的な注意事項や、通院の手続きの説明などを聞いていた。

「あの、言いにくいことなんですが・・・」

最後に質問はあるかと聞かれ、母親はそう切り出した。

「どうぞ、何でもおっしゃって下さい」

「最近、ニュースを見ていると義体のことが取り上げられていますよね?それで・・・あの・・・」

主治医はそこまでで質問の意図を察し、母親の言葉を遮って答えた。

「えぇ、お母様のおっしゃりたいことはわかります。義体の不具合だとか、術後の副作用だとか、ニュースでは色々と騒がれてはいますが、根拠のないことなんです」

こういった質問は多いのだろう、手馴れた様子で、まるで原稿用紙を読んでいるかのように続ける。

「亡くなられた方は・・・残念だとは思います、ですが義体にはなんの不備もありませんし、まして義体が原因ではないのですから、安心して下さい」

まだ少し不安はあるものの、そう主治医に強く言われひとまず納得した。

病院を出てから家に着くまで、由樹はずっとニコニコと笑っていた。

――誰も私が義体だなんてわかってない――

そう思うと、何もかもが上手くいくような気になって、自然に笑みがこぼれてきた。