「リンナさんは、ちょっとだけ変わってる人ですけど――。優しい人なんです。」
「・・・。」
 アルジャンさんはわたしを見ている。とても不思議そうに。
 わたしの言い方がよくなかったのかもしれない。わたしがリンナさんにいじめられているなんて、思われなければいいけど。
「そうなんだ。」
 アルジャンさんはお皿を拭いた。と、ぱりん、という音がする。
 お皿が割れていた。でも、そんなことよりも。アルジャンさんの指からは、真っ赤な血が流れていた。
「アルジャンさん!?」
 わたしは慌ててアルジャンさんの手首を取る。アルジャンさんの傷の手当てをしなくちゃ。
「待っ――!」
 大きな音がした色んなものが割れる音。わたしの視界は、またエメラルドグリーンに――。
 何かが割れる音は止まらない。アルジャンさんとわたしの周りで、色んなものが割れている。洗っていたお皿、ティーポット、食器棚――。
 どうしてこんなことになってるんだろう。わたしは不思議な気持ちだった。お皿が割れるって危機感はなくて。
「なぁにしてるのぉ?アルジャンくぅん。」
 リンナさんがまた、来た。わたしたちを見ると、アルジャンさんの頭をどつく。
「あっ!」
 わたしは小さく叫んだ。アルジャンさんの手を離してしまう。すると、お皿が割れるのが止まった。
「だめでしょぉ?もぉ。」
「・・・。」
 何がだめなのか、わたしには全くわからない。アルジャンさんは知っているのだろうか。
 リンナさんはアルジャンさんの頭をくしゃくしゃにして撫でていた。膨れっ面で、アルジャンさんはわたしを見ている。視線の先に、わたしがいただけかもしれない。
「フィーネぇ。」
「はい。」
「フィーネはぁ、アルジャンとぉ、魔力がぁ、ぴったりなのぉ。だからぁ、触ったらぁ、暴走ぅ、しちゃうのよぉ。」
「・・・。」
「だからぁ、フィーネにぃ、魔法のぉ、使い方をぉ、教えるぅ、まではぁ、触っちゃぁ、だめなのぉ。」
「はぁ。」
 アルジャンさんは気の抜けた声を出した。