彼女は「ふふ」と笑うと、言った。

「その通りよ。私は加藤雄太の姉です」

 合ってて良かった。これで間違えてたら失礼窮まりない。

「そうですか。では、僕はこれで」

 僕は立ち上がり、隣のブランコに置いてあった鞄に手を取る。

「ちょっといいかしら?」

 不意に、彼女は聞いて来た。後ろを向いた僕に、彼女は話し掛けてくる。
 僕は「何でしょう」と言いながら彼女を見る。

「私と会った事、雄太に内緒にしていただけるかしら?」

 僕は特に聞き返したりはせず、「分かりました」と返事をした。

「…どうしてか聞かないの?」

「大体そう言う人に限って、聞かれたくないものです。僕が聞いた所で、どうせ貴女は教えてはくれないでしょう?」

「確かにそうね」

「それに僕は、人にはなるべく詮索しないようにしてるんです」

 僕は「それでは」と言ってその場から立ち去る。

「あら、名前を聞くの、忘れてたわ。まあ、いずれまた会うでしょう。その時にでも」

 後ろで微かにそう聞こえた気がしたが、僕は特に気にする事もなく、僕は公園を出た。
 やっぱり名前位はちゃんと名乗った方が良かっただろうか。