「わあっ!びっ、びっくりした」
 目の前に赤いゴムマリが転げてきた。昔はどこででも見かけたのだが、今はそう滅多に見かけない。
 加奈子は、夜食用に買ったジュースやお菓子の入った袋をガサガサいわせながら、自分の横にそびえ立っている壁にバウンドして当たったマリを追いかけて拾うと、マリの飛んできた方向へ振り返った。
 そこには少し寂れた公園が一つあって、とても可愛らしい少女がその公園の入口の所でこちらをみている。
 少女の横には、ひび割れたガラスのふたの付いた掲示板があり、すでにその文字は錆などでかすれて読めない。かろうじて読めたのは公園の名前と、いつごろこの公園が出来た等くらいだろうか。
 加奈子は、相変わらず陰気ねぇと思いつつ、車が来ないのを確認すると、少女の側まで行った。
 この公園は、加奈子の通学路の途中にある。
 家からそう離れていない場所にその公園があったせいもあるが、ここより広い公園はこの辺りじゃあまり見かけない。それなのに人が少ないのは、ひとえに公園のある場所が悪いせいだと加奈子は思った。
加奈子の一番古い記憶には、この公園で誰かとブランコで遊んだというのがあった。久しぶりに興味がその公園に向いたので、懐かしいと思いつつ公園の方へ歩み寄る。
「はい!これ、あなたのでしょ」
「有り難う、お姉ちゃん!」
 少女は加奈子からマリを受け取ると、満面に笑顔を浮かべ、公園の中へ走って行った。