「ねぇ、小夏ちゃん」
私が、二人が逃げて行った方を睨んでいると、由奈が私の名前を呼んだ。
振り返ると、由奈は真っ直ぐに私を見ていた。
「どうしたの?由奈。…あー、勝負のことなら頑張るよ。これでも負けず嫌いな性格だし、なんとか…」
「違くて!勝負とかそういうのじゃなくて。………ねぇ、奏斗くんは?」
心配をかけまいと言ったけど、その言葉を由奈に遮られた。
え?奏斗…?
由奈は目を見開いた私をジッと見ている。
…そーいえば、今日奏斗を見かけていない。
「今日来てないのかね?」
「もう、そっちじゃないよ!」
由奈は頬をプゥッと膨らませて言った。
え?違う?
私は必死に頭をフル回転させて考えた。
そっちじゃないなら…
…あ。
由奈が言いたいのは、ここ一週間のことか?
私が「あー…」と頭を掻くと、由奈はやっと分かったかと言う様にため息をついた。
ここ一週間のこと…
私、一週間ぐらい奏斗とは口を聞いていないんだ。
あの、ブリ子と勝負を決めた日から。
お互い目も会わせなかったし。
なんか、奏斗。怒ってるみたいでさ、近寄れなかったんだ。
でも、これも奏斗のための勝負であって…
「小夏ちゃん、奏斗くんの気持ちも考えてあげないと。…奏斗くんを信じてあげないと」
「由奈…?それってどういう意…」
─『全校生徒の皆さん、開会式を始めるので各クラスごとに並んで下さい』
私が聞こうとしたらちょうどアナウンスが流れ、私たちの会話は終わってしまった。
ねぇ、由奈。
奏斗の気持ちって何?
怒らせてる原因も、それに関係あるのか…?
結局それから由奈に聞けず、開会式が始まった。
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