「違うだろっ」
「そうでしょうね」
「うわっ、シルキスのやつ、分かっていて、私に『ありがとう』を言わない気だぞ」
魔王さまは、ヘナの横に並ぶ。
肩をあわせ、一緒になってシルキスを見上げるようにする。
「ヘナも言ってやれ、この恩知らずっ、あほう、あほーう」
「……」
「どうした、ヘナも言っていいんだぞ。こいつは言わないと分からないからな」
「……申しわけありません、シルキスさま。魔王さまを危険に晒しました」
ヘナは魔王さまと口を合わせず、ガラス色の目伏せてシルキスに頭を下げた。
シルキスは、血を滴らせながら優しい声で言う。
「魔王さまが出てこないように、ヘナに後を任せたのだけどね」
「……はい、私の責です」
「待て、シルキス。ヘナを怒る気か?ヘナを怒ったら、私が怒るぞ。すごく怒るぞっ」


