黒の魔王さまが答えた。
「ああ、別に何もされてないよ。話をしただけ」
「安心しました。そのままで、少しだけお待ちくだ、」
さい。
と言い切る前に、アイオネは地面を蹴った。
一歩で塔の前で来て、次の一歩で塔の壁を越える。
王国の良血勇者が生む本気の速度と跳躍は、野良のシルキスのそれを各段に上回った。
アイオネは宙で抜刀し、次の跳躍でシルキスの高さと並んだ。
ただし、これはアイオネが跳んだせいだけではない。
シルキスもアイオネにあわせて剣を抜き、跳びあがってくるアイオネめがけて飛び降りたせいだ。
シルキスの魔王殺しの黒刃と、アイオネの白銀の刃が空中でぶつかり火花をあげる。


