振り向くとさっきの乞食侍。

「な・・・なんや、あんたは?」
「先ほどのお話しの海道修理とは、二十歳ぐらいの武士ですか?」
「・・・そうや」
「陰流の使い手ですか?」
「んー・・・そんな名だったかな」
「お願いです!」

 捨吉はびっくりして飛び下がった。
「私は・・・修理の・・・知り合いなのです。会うことは出来ませんでしょうか?」

 捨吉はいぶかしげに侍を観察した。薄暗くなっていたので目を凝らした。近寄ると臭い!

 だが、前髪は乱れて目に掛かっているが、形の良い眉に筋の通った鼻筋、可愛い小鼻だ。頬が垢で汚れているが唇は厚くおなごのようだ。
 瓜実の輪郭の顔と顎。後ろ髪も埃にまみれているが長い。身体の形もまだ少年らしさを残している。
 ぴんと反った背もどこか万作の姿を思い起こさせる。

(ふむ・・・磨けば光るかも)
 万作があの世に行ってしまい、修理様は気を落としておられる。だが、こいつは飯にありつきたいが為にさっきの話を利用しようとしているのかも知れぬ・・・
 だが、上玉かも知れぬ。

 嘘はどうせばれる。だが、修理様の慰めになれば良いかも。儂はあの方に恩があるし。

「お侍はん。ではご案内致します」