捨吉は得意満面となっている。

「そのお方はな!儂のご主人の前野庄左右衛門様宅に今いらっしゃる」
「どうして万作様とお契りになったんだ!」
「・・・そりゃ、細かくは言えへんが、万作様はそのお方のお力におすがりになったんや」
「なんじゃ、そりゃ、取引じゃないかえ?」

「最初はさ・・・そうかも知れへんが、一回お契りになったら、万作はんはぞっこんお惚れになった」
「えー!そ・・・そんなに良かったのかい?」

「ああ、その夜のことは忘れへん。一晩中、万作はんのよがり声が聞こえておった!」
「ほ・・・お!そ、そのお方の名は?」

「海道様じゃ!海道修理!」
「何!」
 突然、隅の若侍が台を膝で倒す勢いで立ち上がった!みなびっくりして侍を見た。
 その侍は注目を浴びてはっとして下を向いて座った。
「何じゃ・・・あいつは。乞食かい」

 居酒屋の反対側の隅には、修験者の姿の男が酒を飲んでいた。

 みんなに酒を驕られて、良い気分の捨吉は居酒屋を出た。
「もし・・・」