修理は呆れて言った。
「・・・静音!お前もか!」

 山門を埋め尽くす野次馬から歓声が上がるが、その後はどういう地獄が待っているのか!
 静音は怒った顔で佐久間達を見るだけで、修理を見ようとはしない。

 五部浄は静音をじろじろ見て、
「ほう・・・これは。散らせるには惜しい華じゃな。修理殿!もう不破万作の代わりを見つけたのか?万作との契りも奴が死ねば終わりか?」

 五人の刺客達の野卑な笑いが起こる。

 静音の眉間に筋が一本入った!

 ばきっと音がした。

 怒りの余りに、勢いよく下げ緒を張ったので、栗形(刀の鞘で下げ緒を掛ける穴の開いた突起)が取れてしまったのだ。

「おやおや・・・恐れで壊したぞ・・・お前は後でゆっくりと可愛がってやろう。ふははは!」
 怖れるどころではない静音だった。万作の名をここでまで聞こうとは!腹がぐらぐらと煮えくりかえった!

 突如、静音は下げ緒を投げ捨てると、腰の備前長船祐定の鯉口を切って、前に踏み出た!

 果たし合いの幕が斬って落とされた!