「前野様!」

 修理は叫んだ。
 庄左右衛門は襷(たすき)、馬乗り袴(ばかま)に槍を携え、騎馬のまま修理の横にやって来た。さすがに年のせいでふうふう言っている。

「旧武田家臣、前野庄左右衛門時惟(ときただ)!我が養子の修理に助太刀致す!」
「前野様!・・・養子?!」
「そうじゃ、昨日の親子の杯、何だと思っていたのじゃ!修理」
 捨吉は小躍りして喜んだ。
「旦那様!昔の通りじゃ!年寄りの冷や水がもう一人いた!」
「うるさい!」

 修理は目の前が真っ暗になった!
 確かに助太刀は嬉しい。しかし老人が二人!彼らを庇って戦う余裕はない!


 そしてざわざわと野次馬が、再びさざめいた。
 庄左右衛門の反対側の自分の左に、ついと前に出た人影が横目に入った。驚いて見た。
「!」

 誰もが不破万作がそこに現れたと思った!
 艶やかな前髪に紫の髻から流れる後ろ髪。薄紫が腹部で深紅となる小袖に緇の短袴!

 歳は十六、瓜実の女顔に怒りを孕んだ一筋の眉。萌え出た芽が匂う様な小姓姿!