二十二日の未明。

 修理は庄左右衛門の部屋に別れを告げに言った。静音も修理の後を部屋に付いてくる。庄左右衛門は既に起きており、上座でその挨拶を受けた。
「御武運を祈り申す」
 静音は試合場に付いて来るのかと思ったが、式台で見送った。
 怒りの目で言った。
「後でお前の骸を取りに行ってやる」
「息災でな。・・・静音」
 最後の名を心に刻みながら呼ぶ。

 修理は捨吉と共に上京(かみきょう)に馬で向かった。

 向かうは曹洞宗、萬松山天寧寺!
 山門から東を眺めやれば比叡山が絵の様に見えるところから額縁寺と俗に言われる。

 明け六の鐘が鳴り始めた。広い境内は周りを竹藪で囲まれている。修理と捨吉は馬を降り、既に開いていた額縁の山門から入って行った。
 見ると境内の周りには幔幕が掛けてある。その上から見事な孟宗竹が、背を競うかの様にそそり立つ。

 修理は捨吉に言った。捨吉は小袖の裾を捲り脇差しを刺して短い槍を持っている。
「捨吉さん!良いか、手を出すな。その武器はあくまで貴方の身を守る為じゃ!」

「・・・へい、儂が十年、若かったらのう」