「修理殿。急がせた甲斐あって、刀が帰ってきた」

「しかし・・・その太刀は・・・」
「刃欠けは無かったそうじゃ。油がこんなに付いているのに何を斬ったのかと研ぎ師が頭を捻っておった。これはお主にやろう」

「鎌倉時代からの家宝を・・・良いのですか」
「これと生死を共にした修理殿が、既にこの太刀の主人じゃよ。それに業物(わざもの)ということが判明した。さあ・・・一杯やるか」
 庄左右衛門は、捨吉に持ってこさせた四方を間にした。杯が一つ乗っている。
「別に別れの酒ではない。修理殿に会えて良かったと思っておる。当代随一の剣豪にな」

「お恥ずかしい・・・」
 まず庄左右衛門が呑んでその杯を修理に与えた。そして修理も捨吉に注がれた酒をぐいと飲んだ。

 国では困窮の家の中で、杯などどこかに行ってしまった。正月の祝賀で貰った酒を一つの茶碗で父上と呑んだ。

 今もまるで父上と呑んでいるようじゃ・・・

 修理は庄左右衛門との一期一会のこの酒を深く味わっていた。