人々がザワついた。

「何故…シオンさんなのですか?」

料理人の男が小さな声で問いかけた。


「シオンは、わたしが一番信頼出来る家臣だからだ」

アレンはキッパリと答えた。

「家臣の方なら、レーガンさんやサイナンさんがおられますが…」

図書室員が小声で訴える。

「何故、シオンではいけないのだ?」

不思議に思って、アレンは聞いた。


城の人々は自分の父が王の頃から、アレンを慕っていた。

アレンの言葉を信じた。

しかし、今日は質問が多い。

何故だろう…?


「シオンさんは女性です」

料理人がためらいがちに言った。

「男女は関係ないのではないか?」


大広間は静まった。



「わたしは、旅に出る。
急用があれば、伝書の鳥を遣わせばよい。
よっぽどでない限り連絡はするな。
敵が読む可能性がある。
…そうだな、暗号文にして送ってくれ」

アレンはそう言うと、人々に笑いかけた。

「無事、戻ってくるよ」

人々はその言葉に安心したのか、表情が和らいだ。


「お気をつけて…」

シオンさんが私とアレンを見ながら言った。

「お気をつけて」

「気をつけて下さい」

人々が次々に口を開く。


アレンは笑って、答えた。

有香も笑いかけた。